side.S
わたがしを片手に、晴とアイツが行ったであろうトイレに向かう途中。
「あれ?志貴先輩?」
何故かソイツはトウモロコシを片手に、一人でいた。
「晴は?」
「トイレー」
見送りはしましたー、と敬礼する彼女。
それにしても、コイツはよく食うよく食う。
一度、腹ん中を見していただきたい。
「わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…わたがしと志貴先輩…ギャップ萌えギャップ萌えギャップ萌え」
「………………」
「写メっていいですか」
「殺すぞ」
「あぁっ、もうこの言葉サイコー……っ」
腹の中より頭の中が気になって仕方がない。
「おい」
「なんでしょうか」
彼女は人懐っこい笑顔を浮かべ、俺を見る。
「なぁ何で俺なんだ?」
晴じゃなくて、あの橋本優季じゃなくて。
「お前、何で俺を選んだんだ?」
さくらがいなくなって、空っぽになっていた俺。
まださくらが忘れられなくて、未練がましく桜のピアスも今日を光らしている。
「それは志貴先輩は優しいから」
どの口がそれを言う。
今はこうして話しているが、最初の方はほとんど会話の成立がしてなかっただろ。
「なぁ、お前さぁ、何で晴を助けたんだ?」
面倒事は嫌いな性格だろ。
何でとても複雑で、面倒な晴の事情に首をつっこんだ?
「はるるんは、友達だから。それにケーキバイキングに行きたかったから」
そういえば、晴が言っていた。
家族との仲違いを直したら、アイツにケーキバイキングに連れていかされた、と。
ちなみに奢らされたらしい。
奢りが嫌いじゃなかったのか、と聞くと、これは感謝料です。
と意味不明な理屈で丸められたらしい。
なんとも、可哀想な出来事である。
「………あっそ」
「そーなんですよ」
暫し無言。
やっぱり、コイツとは会話が続かない。
けれど、その無言も気持ち悪いものでなくて、居心地のいいもので。
晴の顔を思い出すと、罪悪感だけが胸に積もる。