優季の襟元を掴んで、扉を開ける。


「さぁっ、眼科に行こうっ!」


「ちょっ、…おいっ、待てやっ」


「何故に喧嘩腰」


「知るかよ。つーか、早く服着て行くぞ。ほら着ろ」


ぐいっと顔に黒のシフォン生地を押し付けられる。


ヨダレがっ…ヨダレがつくっ。


汚くなるっ。


あんたは鬼かよ。


あたしも負けじと服を押し返し、反論をする。


「あたしには似合わないの!」


「俺は似合うと思ってる」


「独裁者か」


「知るか。さっさと着ろ」


「知ってた!?独裁者って誰かに殺され死ぬんだよ‼優季も誰かに殺され……ッいったーーッ」


「俺はお前以外には人間扱いしてるからな」


という言葉にキメ顔。


顔はキマっているのに、言葉が最低だ。


え、何。あたしって人間カウントされてないの?


じゃあ、あたしは何モンだよ。宇宙人か。


「…………おいバカ」


「もしかして、あたし?」


「お前以外に誰がいる」


「優季」


「ぶっ殺す」


怖いってばー。



「とにかく、優季。あたし、着替えたいから出てって」


「何着る気だ」


「いつもの格好」


「却下」


「………………」


じゃあどうしろと?


全裸か。全裸だろ。…うん。ちょいとアウトじゃない?


「うん。優季。君の変態度は分かったからさ、うん。…ごめん。優季の性癖は理解できないわ」


「お前の妄想僻が理解出来ない」


妄想て…失礼な。


「お前、これ着ろ」


やっぱり差し出されたのは黒のシフォン生地のワンピース。


「………優季が着たら?」


意外と様になりそうじゃね?


「お前が着ろ」


「やだ」


「もし、着ないのなら。花火大会は行くな」


なんて最高の脅し文句なんだろうか。


ムカつくことこの上なし。


「……………………わかった」


「ん。いい子いい子」


そう言って、優季は頭を撫でてくれた。


暖かくて、優しい、あたしの大好きな手。


別に嫌いじゃないから、放置しておくのはいつものことである。