「優季クン、人の部屋には勝手に入っちゃダメって、お母さんに言われなかったのかい?」


「俺、兄弟いないし」


「………………」


兄弟以前の問題な気がするんですけど。


兄弟じゃなくても、お母さんとかにも適応できると思うんですけど。


てゆーか、お母さんが着替えてるときに入ったらどうするの。


絶対、時間が止まったような感覚になるよ。うん。


「つーか、遅い」


「え。………」


ちろり、時計に目を向けると、もう5分は過ぎていた。


「…………あ、うん。ごめん」


「気持ちこもってない」


「優季なんかに気持ち込めてたまるか」


「どういう意味だよコラ」


こめかみをピクピクさせた彼は、あたしの目の前のクローゼットに目を移した。


「お前、ようやく母さんが買ってきた服、着るのか?」


「あ、うん、…けど、なんか服が可愛すぎて、似合うのないんだよ」


あたしに似合うといったら、…そうだなぁ。


ゴリラのリアル写真をプリントしたTシャツとか、…。あ、勿論、チンパンジーも可。


「おい」


「あ、はい」


あ、優季に敬語を使ってしまった。


分かりやすいことに、彼はニヤリと笑みを浮かべていた。


一生の不覚。遺書にこのいいわけでも書いておこうか。


「おい、これでいいんじゃないのか?」


クローゼットから優季にセレクトされてしまった可哀想な洋服は先程あたしが取った黒のシフォン生地のワンピースだった。


「…優季、1回深呼吸しようか」


「お前大丈夫か?」


頭が、とどこが可笑しいと言われているのかが何となく察してしまうあたしが恨ましい。


「とにかく、深く深く深呼吸!」


優季は怪訝な眼差しをこっちに向けながら、大人しく深呼吸をしてくれた。


「では、聞こう」


「……………………」


「ほんとに、この服があたしに似合うと思ったの?」


「あぁ」


「よし、眼科に行こー!」