それは、あたしがお父さんを殺してしまったから。
直接的に殺さずに、間接的に。
お母さんとお父さんはラブラブだった。
あたしも結婚するなら、こんな感じのバカ夫婦になりたいと思ってた。
そして。
なんとなく、分かっていた。
お父さんがお母さんを想う気持ちとお母さんがお父さんを想う気持ちに差があったことを。
お父さんはお母さんに“溺愛”してた。
お母さんはお父さんに“狂愛”してた。
お父さんがいない世界なんてあり得ない、そんな雰囲気があたしは子供ながら察していた。
けど、お父さんがいない世界が出来てしまった。
あたしのせいで。
それだったら、しょうがないか。
普通はさ、父が残した物である子供を大切に育てるんだと思うけど。
でも、その子供がお父さんを殺した。
子供は二人いる。
なら、一人いるならいい。
お母さんはそう思ったに違いない。
それで、捨てられたのがあたし。
可愛がられるのが瑠菜。
…別にいい。異論はない。
瑠菜があたしの立場だったら、あたしは瑠菜がやらかした以上のことをやらかして、意地でもこの立場をもぎ取りに来るに違いないだろうから。
瑠菜には、この立場は重すぎるから。
あたしなら、瑠菜よりは軽いから。
「…ッ…いっ、………たっ」
それに、こんな痛み慣れてるし。
ピンヒールって案外腹に食い込む…何で今日に限ってピンヒール履いてんの。
ほんとついてない。
「お母さんッ!!!!!」
瑠菜が大きな声をあげた。
もうバカバカ。そんな大声出したら、ナースさん達が駆けつけてきちゃうじゃんか。
ほらバタバタと廊下に足音が鳴っている。
焼き付けなきゃ。
お母さんの姿を、瑠菜の姿を。
きっと。
こんなに長く見れることはないから。