「お母さん?お姉ちゃん大丈夫?優季くんも何叫んでるの?」
少し声が外に漏れたのか、入り口ですれ違った瑠菜が再び病室に入ってきた。
「……………ぇ」
「瑠菜瑠菜瑠菜瑠菜瑠菜」
お母さんは壊れたように妹の名前を呼ぶ。
「どうしたの?お母さん、」
瑠菜はあたしとお母さんを交互に見ながら、瞳を揺らす。
そりゃ、戸惑うよ。
だって、母親が姉の腹をピンヒールでグリグリしてんだよ?
さっきまで笑顔で夜ご飯何にしよっか、って話してたのに。
人間って怖い。
物事1つで、人が変わってしまう。
「お姉ちゃ「瑠菜」
瑠菜の声を遮るお母さん。
なんかさ。こんな場面、よく漫画とか小説とかで、あったなぁ。
ここでさ、お母さんが冷たい声で。
「私の娘は瑠菜だけよ」
って、無表情で言うの。
やだ。もうドンピシャ。
あたし、占い師になれちゃったりして。
ほんと呑気だなぁあたし。
…違うか。
状況に頭が飲み込んでくれてないんだ。
お父さんのことも、お母さんのことも。
全部。信じたくないんだ。
「お姉ちゃんは?…」
「あんなの要らないわ。美沙なんて要らない」
この時があたしの名前を読んでくれたのは最後だったと思う。
「千早さん、…じゃあ美沙はどうなるんだよッ」
「…もう私の子じゃないわ。要らないもの。要らない要らない。ねぇ優季くん。美沙じゃなくて、瑠菜にしない?」
「……………っ」
お母さんはあたしから全部奪いたいのかな。
幼稚だな。やることが子供じみている。
「…悪いですけど、俺は美沙の味方って宣言してしまったので、妹には変更できない」
「…………あら残念」
お母さんは狂気じみた微笑を浮かべた。
なんでなんで、こんなに変わったの。