【完】じゃないよ!
何が【完】なの!
終わっちゃダメだよ。
終わらせてなんか、あげないもん。
なぜなら、
「志貴先輩との挙式がまだだから!」
「………………」
「どこにします?挙式。あたし的にはイタリアとかいいなぁって思うんですけどー」
「………………」
「モンシャンミシェルですか‼?わぁ志貴先輩は考えることが違いますね!」
「言ってもねぇし、考えてもねぇよ」
「まぁまぁ照れずに」
ぽんぽんと彼の肩を叩くと、あろうことか手を払われた。
「晴のとこ」
やだやだ志貴先輩。急いじゃって。
「はるるんもピンクワールドも逃げませんって。さて、では気を取り直しましょうか」
「お前は頭を取っ替えてこい」
「残念ながら美沙ちゃんの頭はアンパンで出来てないので取り外し不可です」
「………………」
志貴先輩に少し睨まれたことろで。
愉快な空気を鋭利な空気に変える。
「志貴先輩、チェックインする時だけ恋人の真似事しますんで、そこんとこよろしくです」
「分かった」
腕を軽く絡ませ、カウンターに向かう。
今になって気付いたけど、少し視線が痛い。
いつも志貴先輩とかはるるんとか優季があたしに向けるような視線じゃなくて、もっとこう。
懐かしい昔に感じたような。あのときの自分が感じたような。
イタイ視線。
「結構目立ってますね」
「そうだな。多分、制服だからだろ」
「………………」
──『お姉ちゃんっ私は大好きだからっ』
瑠菜が、そんな優しい子じゃなかったら、あたしはこんなに気になっていなかったのに。
心残りじゃなかったのに。
あんたなんて嫌いよ、と言うくらいのよくドラマとかである悪女なら良かったのに。
嫌なの。
心残りとか、後悔だとか。
瑠菜。あなたがあたしの心残りなんだよ。
あの時、別れ際で何でそう言ったの。
それを聞いたお母さんは怒り狂ったじゃないか。
バカじゃないから、怒り狂う事態くらい予測できたはずだ。
なんで、なんで。
あの時、ああ言ったんの。
「おい、」
「あ、はい。どうかしましたか?」
「どうかしたじゃねぇだろ」
目の前はいつの間にかにカウンター。
受付の人に怪訝な目で見られてる。
受付の人は若い男の少し顔は整い気味。茶髪、ピアスは少し多めだ。
大丈夫。大丈夫。
不審に思われたら優季が教えてくれた技でいけるはずだ。
「…あの、すいません。さっき来た高校生ってどこの部屋、とりましたか?」
ドストレート。むっちゃ直球。
だってさ、回りくどく聞くとかどう聞けばいいか分かんなくない?
遠回しに聞くと、最終的違う話になっちゃうんだよね普通。
だから、ストレート。直球だ。
「…何故でしょうか?」
そりゃ殴り込みをしに行きたいからです。
「高校生はどのような部屋を選ぶのか、参考にしたくて。あたし達、始めたなんですよ」
にっこり、笑みを張り付ける。
「あぁ。そうですか。前の人達は、一番安い部屋を選びましたよ」
「なら、そこにします。前の人達のとなりの部屋、空いてますか?」
「はい。かしこまりました」
良かった良かった。これで安泰だ。