彼女は沈黙したあと、ゆっくり形の整った唇を薄く開けた。
小さな呼吸だった。
「ねぇ知ってる?はるるん。病院に一人でいるってスゴく辛いんだよ?」
「……………」
「外の世界は窓からしか見れなくて。どうしょうもなく憧れるんだ」
「……………」
「一回外に踏み出すと、新鮮で。すべて初めてで。ずっとこの世界にいたい、と思ってしまう」
「……………」
「何度倒れようが死にかけようが、憧れる。焦がれる」
「…………」
「ねぇはるるん。はるるんはこれを聞いても、妹ちゃんが外にいることを反対するの?」
「……………」
美沙ちゃんは何を思って、これを言っているのだろうか。
なんで、そんなにも他人の事で悲しそうに顔を歪ませているの?
その表情があまりにも切なすぎて、とっさに視線を下にした。
けれど、流されちゃダメだ。
気合いを入れ直して、彼女に牙を向く。
「何で美沙ちゃんが語るわけ?知らないくせに」
美沙ちゃんはぐっと唇を噛み締めた。
ヘッ。ざまぁみろ。
なんて思ったのは束の間。彼女は芯のある瞳で、俺をまっすぐ見る。
「はるるんはさ、人肌が恋しいんでしょ?」
「……………」
「寂しいんでしょ?誰かに寂しさを埋めて欲しいんでしょ?誰かの瞳に自分を写して欲しいんでしょ?」
「………………ッ」
的確だった。
全て、的確に心中を当てられた。
「志貴先輩に言いたかった。けれど、志貴先輩はさくらさんの事もあって言えなかった。だから自分で解決しようと思った」
「………………」
「手っ取り早く、人肌を得る方法は……自分の容姿を利用することだった。……当たり?」
「…うん。すんごく当たってるよ」
顔を上げて見ると、ふんわりと優しく笑った彼女がいて。
「…ねぇはるるん。あたしじゃダメかな?」
「……………何が」
「はるるんの相手。……勿論、体の関係を築きましょって事じゃないよ?」
「どーいうこと?」
「はるるんが苦しいのなら、あたしが胸を貸してあげる。気が済むまであたしがついてあげる」
「……………」
「夜中でも構わない。はるるんが求めてるなら、あたしはマッハで駆けつけるよ」
何でそんなに彼女は必死なのか。
何でそんなに俺に執着するのだろうか。
「志貴が好きなのに、そんなことしてていいの?」
美沙ちゃんは俺の頬に添えている手に入れる力を入れた。
ヤバイヤバイ。俺のイケメンフェイスが崩れる。
タコみたいな顔になっちゃうって。