圧倒的な魔力。
完全なコントロール。
誰一人転げ落ちることなくダンスホールを中心に並べられたあちこちの椅子に腰掛け、数人ずつがテーブルを囲んでいた。
パチンと、もう一度指がなり、グラスが現れ、飲み物が注がれていく。
「乾杯」
誰かが呟いて、グラスが当たる音がした。
「クラウン」
魅惑的に微笑んでグラスを掲げたホセは、振り向いた私のグラスに優しく乾杯する。
「幸せだな、クラウン」
うん、と私は頷いて、入っていたシャンパンを飲み干す。
ホセは赤いワインをグラスの中で弄び、香りを嗅ぐと味わうようにあおった。
テーブルに置かれた空のグラスはたちまち消え去り、鳴りだした音楽と共に現れたウェイター達がもう働き始めていた。
側を通った一人をホセは呼び止め、盆の上の白ワインを2つ取る。
1つを私に手渡して、ホセはにっこりと笑った。
「どうだ、気に入ったか?」
うん、と私は頷いて少しグラスに口付ける。
こんなの、すごいねホセ。
「お安い御用だ。魔力があり余ってる…少し装飾を加えようか?」
ううん、充分。
そういうとホセは微笑んで、それにしてもと顔をしかめた。
「これで俺も、永久に生きられる体になったのか?」
能力が爆発的に上がったぞ、とホセは不思議そうに言った。
「やあ、ジュエル君。酷い魔力だな、破滅の道を突き進むなよ…歴史上前例がないからね、こんなのは。しかし君は爆発的な能力向上に遭ったようだな」
「Nさん…どう思われますか?」
「どうだろうね、私も知らないな。まあ、生まれた子供のことも考えておいた方がいいかもな」
君らが許すならたっぷり人体実験でもしたいものだと、ぞっとすることを言い残してNはどこかにいってしまった。
「子供か…」
ちょっと待って気が早いよホセ!?
「やっぱり二人はほしいよな、男の子と女の子が一人ずつ…うん、それ以上生んでくれたって全然いい。多ければ多いほどな…」
だから気が早いよ~!
「男の子は母親に似ると言うが、やっぱり金髪か?それで女の子はプラチナブロンド…うんそれがいい。名前は…」
「ずいぶん子煩悩だな…今からこんなんかよ」
ウィングとアクアが三つ子を抱いて現れた。
ホセは一旦妄想を中断し、サファイヤを抱き上げる。
「よしよし…よく来てくれた。可愛い子だろクラウン、お前も早く産めよ」
手っ取り早く双子でもいいと勝手なことを言ってサファイヤを撫で続けるホセ。
残り二人はウィングの腕から逃げ出し、こちらもホセによじ登った。
「ぼくもだっこー」
「あ、ずりーぞ!」
本当に可愛いヤバイ食いたいと若干おかしいが、ホセは三人とも撫で回して幸せそうだ。
「…本当に子供好きだよなぁ…義兄さん」
ウィングはそういってアクアを振り返った。
「お兄ちゃん面倒見いいですから。小さい物が基本的に好きですし好かれます」
私はお兄ちゃんの姿が見られないのが残念ですと、アクアが悲しそうに言う。
アクアの場合目どころか脳の神経がやられているので義眼でも視界は回復しない。
「見ればいいだろ」
ホセは呟き不意にアクアの手をひっつかみ、自分の頬に当てさせた。
アクアは小さな悲鳴をあげて引っ張られて、ホセの勝手のままホセの瞳に触れかけた。
「分かるだろう…?」
アクアは恐る恐るホセの顔をペタペタ触り、ホセは黙って終わるのを待つ。
ホセが勝手に流れてくるアクアの涙を拭ってやれば、アクアはコクンと頷いた。
「…小さいな、じきに抜かされるぞ」
威厳も何もなくなるんじゃないのかと、ホセは軽く笑った。