現れたクラウンに、ホセは息を呑んだ。
金を食った蚕の繭で作られた、優しい金の糸で織られたドレス。
月桂樹の洗礼を受けた綿花の刺繍は白く、白く。
微かにうつむき加減の頬は薄い化粧で仄かな桃色に染まっていた。
「なんて、美しい…」
誰かがそう呟いた。
ホセは神々しいそれに膝が崩れ落ちそうになるのを耐えながら、隣に立ったクラウンの手を取り、祭壇まで導く。
互いに腕に絡み付いた鎖を、そっと祝福の鉱石に差し出せば二つの端は繋がった。
そして向き合い、互いの唇を合わせる。
鎖は解けることは決してない。
じわりと蕩け、身体に染み込んでいく鎖に身震いして、ホセは堪えきれずに膝をついた。
体が、違うものに変わっていく。
「う、うぁぁぁぁ…あ、あぁぁ…!」
違う、違う。
言うなれば、体の中のタンパク質を徹底的に組み替えられていくような。
細胞の破壊、再生がすざましいスピードで繰り返される。
加わった神の血に身体中が反応し、呼応して。
新しい物が生み出される。
「壊れる、壊れる…」
殻を打ち破り、再生する。
全てが変わる。
心配そうなクラウンの声に応えることすらできない。
クラウンは感じないのだ、自分が勝つから…
悪魔の血は、神には勝てない。
嗚呼でも、負けることすらできないらしい。
ボロボロの体に再構築されていく物は、悪魔と神、どちらでもない物だった。
「…っ、はぁっはぁっ…」
床に這いつくばって七転八倒するホセを、Nだけは冷静に見つめていた。
なんとか立ち上がったホセの不適な笑みに、会釈を返す余裕もあった。
破壊と創造が繰り返されたホセは、悪魔と…いや、吸血鬼と神のミックス状態だった。
特有の冷気に神々しさを感じさせ、力強い両手に言い知れない支配力を感じる。
クリスタルが瞳の奥で激しく回っているのが分かる。
空気の形が見える。
全ての光が見える。
嗚呼、これこそが完全だ。
ホセ、と。
私が呼び掛ければホセはゆっくりと振り向いて私に笑いかける。
その笑顔の美しさに、命の危機すら感じた。
「それでは、宴を始めましょう…」
パチンと、指を一度鳴らしただけで私たちは一瞬にして教会からパーティー会場へと飛んだ。