丁寧に下ろされた地面は、乾いた土だった。

ホセは私の腕をとると、エスコートでもするように歩き出す。

やめてよ、と赤い顔でそういったけれどホセは聞く耳持たずで歩き続ける。

「見てみろ…綺麗だろう」

崖のように切りたって開けた場所に出て、そこが山だと知り、そして私は息を吐いた。

綺麗。

海が、何処までも広がっている。

ずっと、地平線まで続くリアス式海岸。

複雑に捩れた海岸線に私は目を奪われてそして。


「アクァ…」

ずる、と足を滑らせたホセの手を間一髪で掴む。

高さ数十メートルのその下には柔らかな落ち葉も浜辺もない。

私は息を飲みホセに何度も呼び掛けた。

数秒後ハッとしたようにホセは崖に指を引っ掛け腕力だけで飛び上がり私の隣に着地した。

「…悪い」

そう一言言って、フラッとよろけたかと思うと、また落ちそうになって私はドキッとする。


間一髪また崖を掴んで生還したホセを私は怒鳴り付けた。

何してるの、ホセのバカ!

「ごめん…本当に…あぁ、もう迷惑かけないから怒るなよ、な?」

迷惑じゃなくて、と私はホセを睨む。

勝手に溢れてきた涙が視界を歪ませていった。

慌てたようにホセが私を抱きしめて、ごめんと、また謝る。

「アクアがな…ははっ、俺を…責めるんだ…」

落ちろ、落ちろと呪いのように。

自嘲して自業自得だとホセは嘲り、私から離れた。


私はまたホセが落ちないようにギュッと服を掴んで離さなかった。

ホセは大丈夫だからとそういったけど。

アクアを理由に一体いつホセが自分を罰するか分からなかったから。

私はホセを離さなかった。