『しばらく部活が忙しくなるから落ち着くまで友達と一緒に帰るね。希輝もサッカー頑張って!』

昼休み終了後に妃愛からそんなメールが送られてきた。
なぜメールだったのかは分からないがどっちにしろ下校時刻が遅くなるのはお互い様だから、メールを送る必要はない。
それだけ演劇に集中したいということなのかも知れない。
希輝としては寂しく感じないわけではなかったが、妃愛の変化が嬉しかった。
「ひーかーる!編集委員から部活のアンケート用紙もらったよ。」
勇輝の声で我にかえる。いつのまにか部活の時間になっていた。
「終業式〆切ってかいてあるよ!」
「編集委員の委員長と同じクラスだからあとでメール送っておくよ。とりあえず、部室の掃除しようぜ。」
ちらりと振り返れば早速勇輝が机の上の山々を崩しはじめている。
テキパキとした仕事ぶりに関心しつつも希輝はアンケート用紙に目を通す。

『なぜサッカーを始めようと思ったんですか?』
『サッカーの魅力はなんですか?』
『部員の数は何人ですか?』

眺めてるうちに、希輝はなぜ後回しにしたのかを思い出した。
記入するのが面倒だというのもあったが、何より答えようがなかったからだ。
希輝の場合、サッカーをはじめた同期は友達の家にあったサッカーボールをみたときだ。
ものごころがつく頃には、外で友達と夜までサッカーをしていたそうだ。
気がついた時にはサッカーをやっていたから、動機がわからない。
妃愛のことだってそうだ。
いつの間にか好きになっていた。
それは『友達として』ではなく『恋愛として』だ。

告白する機会ならあった。
なのに今日まで伝えられていないのは不安があるからだ。
告白したらこれまでの距離感が崩れ、元に戻らなくなるかも知れない。
そう思うと、いつもブレーキがかかる。