「おい。授業おわったぞ。」

聞き慣れた心地良い声だ。
希輝は何度かまばたきを繰り返し、視界のピントを合わせた。
「おい。希輝!!」
この声は、親友の勇輝だ。
「聞こえてたよ」
「ならもっと早く反応しろよ!」
「ごめんごめん」
希輝はきょろきょろ周りをみるともう1人の親友がいないことに気付く。
「あれ?司は?」
「書類もらいに進路相談室行ったよ。」
もともと頭もよく内申点も高い司は推薦を狙っている。
「司も大変だな」
しみじみと呟く勇輝に希輝は苦笑した。
「勇輝だって予備校結構あるだろ」
「まあな。家でダラダラやってもやる気がでないし、さっさと課題済ませたいしな」
「勇輝は課題をコツコツやる奴だったな」
(誰も俺のことは聞いてこないんだな…妃愛にすら聞かれたことないし…)
数ヶ月前の帰り道に、少し聞かれたぐらいだ。

『希輝は進路どうするの?』

『進学かな。』

30秒もかからないやりとりだった。
その後は2人の間で話すことはなく、きっと知らないままなのだろうと思っていた。
(まあどっちにしろ、しばらくは一緒に帰れないしな)