『そうなんだ…なんか意外だねっ』
ひきつった笑顔で妃愛は答えた。
希輝にきこえてるのか分からないぐらい小声だった。
でも、希輝の耳にしっかりと届いてたらしい。

『じゃあ逆に聞くけど妃愛は好きな人いるの?』

正直に言おうとも思ったが怖くなって力なくうなだれてしまう。
ここで言えば付き合えるかもしれない。
なのに口が開けない。なぜなら振られる可能性もあるからー…。

妃愛は深呼吸をして肺から声をしぼりだす。

『い、いる!好きな人いるよ!』

言ってしまった。時間は戻せない。
妃愛は耐えきれず希輝の反応を待つことなく立ち上がった。

慌てて鞄を持ち上げ、階段を降りていく。
5段目あたりで私は希輝の顔を見た。

『用事思い出したからかえるね!』
『了解っまた明日な!』

妃愛は笑顔をみて、逃げるように階段を駆け下りる。
歪む視界にはいる夕焼けは、まるで絵でかいたかのようにきれいだった。