しばらくして、着いた場所は、バーだった。


個室で、お洒落なお店。



「ここなら、誰も来ねえから落ち着けるだろ。」


「うん。」


個室のソファーに座り、
カクテルを一口飲んだ。


「で、何があった?」


「何も。」


「嘘だね~。
じゃなきゃ俺に会いたいとか言わないっしょ?」


「だからそれは暇だから…」


ぐいっとほっぺを捕まれる。


「ただ暇だから呼んだ風には見えねえよ。
泣いてる。」



泣いてる…?


ほっぺは冷たくない。


涙なんか出てない。


「本当は、泣きたいんだろ?そーゆう目してる。
俺ら似てるからわかるんだよ。
泣きたいの我慢してるんだろ。」


我慢…


「してない…」


「吐き出せよ。」


何で…


私とアンタが同じなら、
泣くなんて無駄なこと。


それ、わかってんじゃん。


なのに…



「優しい顔…しないでよ…」


ぐわっと何かが沸き上がり、視界が歪んだ。


あまりにも、佐原恭二の顔が優しくて…



ないはずの感情が沸き上がる。



悲しくなんかないはず…



寂しくなんかないはず…


なのに…