ぐい。
腕を引かれて藤先輩の胸の中に飛び込んだ。
慌てて離れようとしたけど藤先輩の力は強くてびくともしない。


「…離して」

「君の力が必要なんだ」

「…お願い、離して」


指先が熱くなる。
藤先輩が怖い。
顔を上げさせて伏せた瞳が近づいてくる。


「僕を選べば、君を絶対に殺させない」

「いや、」


くちびるが近づく。
顎を捉えられて動けない。


「僕が一族最後の希望なんだ。最後のね」


吐息が髪に掛かる。
くちびるが触れそう……


「なんの真似ですか?藤くん」

「……榊先生」

「忘れ物を届けに戻ったら偶然見かけましたがこれはなんの真似ですか?」

くちびるに触れる寸前で突然後ろから現れた榊先生に抱き留められた。


「彼女が完全に覚醒するまでは誰も手を出さないと協定を結んだはずです。藤家がそのつもりなら…」

「わかってるよ」