その後聞いた話では、誰かが運良く犯人を見掛け、通報してくれた事で奇跡的に助かったらしい。
運良く助かった命。
それに良かったと思うのも束の間、幼児誘拐殺人犯が捕まる事はなかった。
自分を誘拐し殺そうとしていた犯人が捕まらずに野放しになっている世界。
そんな世界に足を踏み出す勇気が幼い修二にある筈もなく。その結果、修二は家から外に出る事が出来なくなってしまったのだ。
母親にカウンセリングに行こうと言われたが、玄関で靴を履くのさえ怖くて身体が震え外に出れない。
修二にとって安心出来る場所は家だけ。安心出来る人は両親だけ。
誘拐された事でそう思い込んだのだ。
最初の内は、あんな事があったのだから…という気持ちからか、引き込もってしまった修二に何かを言う人は誰も居なかった。
だが4年後、弟のカズキが産まれた事で家の中の雰囲気がガラッと変わったのだ。
母親は修二の事は長い目で見ていかないと…という姿勢を貫いていたが、父親は何処かで小学校にも通っていない事を不満に思っていたのだろう。