口から涎を流し、白眼を剥き倒れている哲夫の姿をじっと見つめる修二。


数秒そのままでいたが、哲夫がピクリとも動かない事に安堵し、ホッと息を吐き出す。



やっと。

やっと、……消えてくれた。



そんな気持ちで満たされると、ぐるっと部屋を見渡した。


しんと静まり返った部屋に一人という状況だが、その方が修二にとっては安心出来る。


何故なら、修二は普段から部屋から殆ど外へ出ない所謂『引きこもり』なのだ。


外に出れていたのは小学1年生の時まで。


いじめにあったわけでもなく、学校が合わなかったわけでもない。


小学1年生の下校時に、当時世間を騒がせていた幼児誘拐殺人犯に誘拐されたからだ。


一緒に帰っていた友達と分かれ、1人で家まで後少しの道を歩いていた時、突然後ろから口元を抑えられ捕まえられたのを今でも修二はハッキリと覚えている。


だが、そこからは記憶が混濁していて犯人の顔すら覚えていない。


気付いた時には修二は病院のベッドで寝ていて、周りで両親が涙を流していた。