「すまない。余りの光景に驚いて大人気ない声をあげてしまって」
冷静を装いそう言いながら、ゆっくりと後ろを振り返ると、修二がじっと動かない桜を見続けているのが哲夫の目に入った。
そして「いえ」と無表情のまま首を横に振る。
無表情なのに、何処か恐怖を含んだ修二の声音が哲夫の胸を高鳴らせる。
「この殺され方って……」
「13年前の幼児誘拐殺人と全く同じだね」
「ですよね」
哲夫の言葉に納得する様に一人首を縦に振る修二は、13年前は6歳か7歳。
幼児誘拐殺人事件で拐われた子供の末路がそんな子供にまで知れ渡っているのだ。
「やっぱり彼が幼児誘拐殺人犯だったって事かな?」
眉間に皺を寄せて、顎を右手の人差し指で擦りながらそう問い掛ける哲夫に修二が少し首を傾げる。
「守さんですか?」
「ああ。今も全く部屋から出てくる気配がないからね」
「確かに……そうですね」
かなり大声を出した自覚が哲夫にはある。
それに気付いて修二はこの部屋に戻ってきたわけで、守が部屋から出てこないというのは想定外の事。
ただ今はそれこそも哲夫には好都合に話を進められる1つとなる。
自分が幼児誘拐殺人犯だという真実を誤魔化す為の1つに。