「ユリコ、起きて」


低く優しい声音が頭に響く。


「ユリコ」


この人のこの声で名前を呼ばれるのが好き。


この愛しい人の声で目覚める瞬間が一番好き。



そんな気持ちで何処かに浮いているような感覚に浸っていた由里子(ユリコ)は、次の瞬間頭に鈍い痛みを感じた。


「そろそろ起きないと帰って来ちゃうだろ」


愛しい人のその言葉が徐々に消えていくのと共に。





ーーーー…………


明るく照らされた白い無機質な部屋に、「うっ……」という由里子の声がこだまする。


由里子は頭を抑えながら横になっていた身体を上半身だけ起こすと、ゆっくりと瞼を上げていく。


どうやら夢を見ていたようだ。


徐々に瞼を上げると共に由里子の視界に映るのは、白い床と自分を覗き込む様に見ている黒の短髪の40代位の男性の顔。


「あっ、気が付いたか!」


その男が何処かホッとした表情をしてそう言うが、ユリコは男を見ながらパチパチと瞬きを繰り返すだけ。



この人、誰?



そう思ったのも束の間、「これで全員目が覚めたって事だな!」というまた別の男の声が聞こえてきた。