「なに、笑ってるんだよ」

「ん?……別に?」

楽しんでたことは内緒で、ごまかして笑った。


「ふーん。ま、ちょっと木下らしくなったからいっか」

また『木下らしく』って言った。


「ね、あたしらしいってどういう事?」

気になるなー。


「そのまんまの意味だよ」

あたしにはハテナが一斉に脳内に広がった。
よく分からないんですが……?



「それより、さっき期待してた?」

あ、そらされた。
ま、いっか。隼田くんがそう言うなら。
またの機会に聞こう。


……ん?いま、なんて?
期待?
さっき?

ドキリとしたけど、とっさに隠した。



「ナんのこと?」

……声が裏返った。
最悪だ。
やっぱりあたしは嘘つくのが性に合わないみたい。

隠すって難しい。


「プッ、期待してたんだ?」

「し、してないよっ。してません!」

「でも、声裏返った」


うっ。隼田くんには叶わないかー。




「……ちょっと、話そうか」

いきなりガラリと空気が変わった。
冷静で落ち着いた声で隼田くんは言い、近くの椅子に座る。

空いている左側の椅子を2回叩いて、座るよう促された。
渋々座って隼田くんを見る。

隼田くんもあたしを見ていて、その眼差しに恥ずかしくなって俯いた。



「……木下のこと、飯島から教えてもらった。アイツとの過去」

「えっ」

いかにもマヌケた声が漏れた。
なっちゃん、教えたんだ……。
怒りは芽生えなかった、むしろ感謝してる。

なっちゃん、泣かなかったかな。
かなり、心配かけちゃったし。
たくさん迷惑もかけたと思うから……。



「……そっか。うん、なっちゃんが言った通りだよ」


でも、なんでだろう。
何となく胸がざわついた。
不安?恐怖?焦り?

……わからない。

違う、たぶん心中によぎった感情すべて。