「雄大、何勝手なこと言ってるんだよ。これ以上ご迷惑をお掛けするわけにはいきませんので、失礼致します。引き続き皆さんで楽しくお過ごしください。戻るよ、雄大」
私が直美に言ったのと同じように坂木さんは土谷さんを咎めて引き下がろうとするが、体格のいい土谷さんは足を組んで直美を抱くように腕を広げて背もたれに預ける。
「まあまあ、一期一会ってことで。女性からの誘いを断るほうが失礼ってモンだろ。真理も座れって」
「あ、そのセリフいいね。土谷さんグッジョブ。坂木さんもほら、座りな」
坂木さんの制止は土谷さんと直美が自然と組んだ強力タッグの前に全く力を発揮せず、店員さんが迅速に空いていた隣の席に男性たちの席を移してくれ、和やかな女子会だったはずが、土谷さんに促されるまま私たちも自己紹介をして、最初から合流することになっていたかのように自然に馴染んでしまった。
「園田直美ちゃん、山崎真帆ちゃん、高野佳苗ちゃんね。先生も面食いだねぇ。ちゃっかり美女ぞろいのところに紛れ込むんだからさ。いやあ、まさかこんなところで美人と飲めるなんて夢にも思わなかったよ。バレンタインなんてなってなくなってしまえって思ってたけど、いいことあるね。一日24時間、終わるまで何があるかわかんないな」
褒められて悪い気はしないが、こういうことをスラスラと言える人は誰彼構わず言っているだろうし、本心は全くわからないから怖い。
「土谷さん、口が達者ですね。お仕事柄ですか?」
「なんかそういうのって軽いよ。チャラいって言われない?」
初対面にもかかわらず、そのテンションに真帆と直美は乗る。
突然出会った見ず知らずの男性と談笑できるほどのスキルを持ち合わせていない私は、ひたすら会話をしている人を目で追うのが精いっぱい。
「確かに俺、絶対口から先に生まれてきたと自分でも思うんだよね。なに、直美ちゃんたちはそういうのダメ系?」
「まあ、けなされるよりはいいけど。私、口先だけの男はイヤよ」
「あたしはノリがいいの好き。さっきからグッジョブ連発。いい仕事してるよ、つっちー」
真帆も満更でもない様子だし、直美なんて勝手にあだ名呼びだ。
別に嫌だとは言わないけれど、合コンならまだ覚悟を決めて行ったけれど、こんな突発的に知らない人とお酒を飲み交わす心の準備ができず、机に身体を乗り出して話を聞く真帆の隣で、ジリジリと背もたれに沈んでいく。