「皆様、申し訳ありません!先生、何やってるんですか!」
「シンリ!ギブギブ!痛い!重い!」
声も出ない間に『先生』と呼ばれたつなぎの男性はうつ伏せに倒され、スーツの男に体重を掛けられる。
身動きが取れなくなったのは一目瞭然で、つなぎ男はすぐに床を叩いて白旗をあげる。
あまりに大げさなことになってしまって、私は慌ててこちらに背を向けているスーツの男性に声をあげる。
「あの、大丈夫なんて離してあげてください」
驚いた顔を見せるスーツの男性が動きを止めると、つなぎの男は身をよじってスーツ男の腕から逃れ、また私の足元に戻ってくる。
つなぎ男が、駄賃を強請る子供のようにそろえて出した両手に、急いではずしたネックレスをそっと乗せる。
「天使って、ネックレス・・・ですか?」
丁寧な口調だけれど、声を荒げたスーツの男性が事態を知って呆然と呟く。
天使には見えない皮製のネックレスを見たら、誰だってそういう反応をすると思う。
佳苗が立ち上がって細身の男性に詰め寄る。
「あんた、このおっさんのツレ?突然うちの佳苗捕まえて天使発言するようなおっさんなら、ちゃんと管理してよね」
「申し訳ありませんでした。あの、これは先生の病気というか、職業病みたいなもので、悪意はないので、どうぞお許しください」
すぐに男性は気の毒なぐらい深く頭を下げてくれる。
気持ちが落ち着いてくると、一人で勘違いして逃げてた上、第三者に頭を下げさせるのは忍びなかった。
「そんな、頭あげてください。あの、びっくりしちゃって、必要以上に騒いでしまってごめんなさい」
立ち上がろうとする私を真帆が引き止めるので、座ったままスーツの男性に軽く頭を下げる。
「佳苗、あんたは被害者してていいんだから」
結局のところ実害はないし、言葉通りびっくりさせられただけだ。
真帆が言うほど、被害も何もない。