雰囲気に溶け込めずひたすらグラスを進めていると、落ちた視線の先には手渡したネックレスを見つめて私の足元で正座をしたままの倉持先生がいて、床に座って痛くないのか心配になってくる。

妹が作ってくれた手作りアクセサリーは不思議な色合いで確かに珍しいと思うが、球体のそれが毬には見えたとしても、天使だなんていう先生の見えている世界には興味が沸いた。

先生の周りだけ空気の流れが緩やかに流れている気がして、ふと夜勤明けの眠気を誘い出される。

こっそり口元を覆って欠伸をかみ殺していたら、先生を挟んで隣に座る坂木さんと目があって見られていたことに気付き、恥ずかしくてぎこちなく目を逸らす。

「あの、高野さん。倉持先生のことは放っておいてもらって大丈夫ですよ。高野さんにもネックレスにも悪さをしないように僕が見てますから」

一応隣のテーブルに座ったものの、緊張感を崩さず、椅子にも浅く座り、背筋を伸ばしている坂木さんが淡く笑いかけてくれる。

明らかに倉持先生より年下に見えるにも関わらず、やはり坂木さんは先生に対して言葉通り保護者のような言い方をする。

責任感が強いのだろう坂木さんに、あまりプレッシャーも与えたくないし、思っていたことを伝える。

「ありがとうございます。でも、その、ネックレスの心配は全然していなくて。倉持先生がネックレスを見て、何を思って、何をしたいんだろうと思って見てるだけなので。芸術家ってやっぱり変わってるなぁって。あ、あんまり知らないのに変わってるなんて言ったら失礼ですね。すみません」

つい、言葉が滑って零してしまった本音を引っ込めるわけにはいかず、すぐに謝ってみるが、当の先生は自分の世界に入っていて聞こえていないのかぴくりとも反応しない。