「念願の子供ができたんでしょう。もっと、うれしい顔しなさいよ!」
「うん・・・そうね」
知恵は作り笑いをした。

「何か不安でもあるの?」
真美が尋ねた。

「子供ができたことは、本当はとてもうれしく思うわ」
「・・・」

「でも、今の私って、ものすごく仕事をしていることに充実感を感じているの」
「・・・」 

「来年に披露宴会場がリニュアルするでしょう。今、その企画から宣伝も任されているしね・・・」
「・・・」

「今からが、仕事として正念場で、がんばらなきゃいけない時に、産休で休むのが、なんだか、皆に申しわけないと思ってね・・・」

「なんだ、そんなことだったの」
知恵が、深刻そうに言っているのに反して、真美は、案心した様子であっさりと言った。

「そんなことって、ひどい言い方しないでよ・・・」
「ごめんね。でも、案心した」

「何が?」
「大輔さん、子供が欲しくないかと思ったのよ」

「もちろん、あの人は前から子供は欲しいと思っていたから、きっと、喜んでもらえるわ」

「だったら、知恵は何も心配しなくていいのよ。仕事の方は、残ったスタッフがやってくれるわよ」
「・・・」

「知恵は、産休が終わったら、仕事に復帰したいの?」
「うん、できることならね。でも、あの人が許してくれるかな・・・」

「そういうことも含めて、今夜、大輔さんとゆっくり話してみたら?」
「うん、わかった」

「それじゃ、そろそろ打ち合わせに行こうかな」
と、言って真美はソファーを立ちあがった。