次の日の朝。 

知恵がキッチンで朝食の準備をしていると、大輔が起きてきてダイニングテーブルの椅子に座った。

「おはよう」
スクランブルエッグを作りながら、知恵が言った。

「おはよう」
大輔は、頭を押さえながら言った。

昨夜は、会社を出てひとりで飲みに行った。
かなり飲んだらしく二日酔いだった。

「大丈夫?」
知恵が心配して尋ねた。

「水くれないか?」
大輔が言うと、知恵はタンブラーグラスに水を入れて差し出した。

「ありがとう」
大輔が一気に水を飲みほした。

昨夜、大輔が帰宅したのは午前三時を過ぎていた。

ドアを開けて入ってきた瞬間、酔いつぶれた大輔は倒れこんだ。

知恵は、なんとか大輔を起こして寝室へと連れていった。
     
「なんか、あったの? あんなに酔って帰るなんて」
知恵は、出来上がったスクランブルエッグをダイニングテブールに置いて言った。
 
「・・・」
大輔は、しばらく黙りこんだ後、
「実は、今回のことで高島さんが会社を辞めることになった」

「高島さんが!?」

知恵も高島のことは知らない仲ではなかった。

自分達の結婚式の時に大輔から、会社の先輩と紹介されていた。

高島は離婚歴があり、一人暮らしをしていたため、何度か大輔が自宅に招いて知恵と一緒に三人で食事をしたこともあった。

大輔が高島のことを兄のように慕っていたことは、知恵にもわかっていた。

高島が会社を辞めることは、大輔にとってもかなりのショックだと思った。

「そうだったの・・・」
と、言った瞬間、知恵につわりが始まった。