まだ私が歌手としてデビューする前のこと。
「馨、お前ほんと歌うの好きだよな」
「うるさいなぁ、いいでしょ。ここにはあたし達しかいないんだから」
「まあ、いいけど」
彼は幼なじみの足立隼(あだち しゅん)。あたしの片想いの相手。それから、毎日あたしの歌を聞いてくれる唯一の存在でもある。
「ねぇ、次は何がいい?」
「何でもいいよ」
「1番困る答えをありがとう。じゃあ........」
そう言ってあたしはラブソングを歌った。こんな風に隼にも思いが伝わったらいいのにと心の中で思いながら。
「やっぱりラブソングが1番下手くそだな」
「はぁ?隼の耳壊れてるんじゃないの?」
「いーや、俺じゃなくて馨が音痴なの」
「はぁ?あたしのどこが音痴だって言うわけ」