人気のない廊下を、ホットコーヒーの入った紙コップを二つ持ってよろよろと歩く。


はーもー、残業をするらしき主任にこれをとっとと届けて、もう帰ろう。


「那~奈さんっ!」


背後から聞こえた声に、そのまんま、背筋が凍ったような気がした。


この間までは、聞くとちょっぴり心が浮わついた。

この間までは、遠くで他の子と話すその声も、何故かすぐに聞き分けて気がついた。


「斉木……くん」


落ち着いて、落ち着いて。


わたしは朝の彼らのやりとりを聞いていないことになっているんだから。


えーとそうすると、どんな態度を取るのが正解?

ラブホ拒否をしたところで終わっている訳だから……


「そんな怖い顔しないでくださいよー、こないだはすみませんでした!」


あれ?

爽やかに頭を下げる斉木くん。


目の前で明るめの茶色い髪の毛が揺れている。