ただでさえ平日の仕事帰りという遅い時間から集まった上に、予想以上に英語の課題に手間取ってしまい、終わる頃には23時を超えていた。

「やっばい、終電!」
イリーナはバタバタと参考書をしまいながら、立ち上がった。
「ごめん、先ダッシュで帰る! 景斗はユウさんを送ってやって!
あ、あと、持ってきた酒、今度飲むからとっといて」
そんなことを叫びながら走り去っていった。

残された景斗とユウの間になんともいえない空気が流れる。

「じゃあ、私もそろそろ帰るね」
「ああ、送ってくよ」
「ううん、だいじょうぶ。駅まで近いし」

見送りすら拒絶されて、景斗は何も言えなくなってしまった。
正直もう、どう接すればいいのか分からない……
景斗は玄関に向かうユウの後ろ姿を見ながら、かける言葉に悩んでいた。

靴を履き終えたユウがふと顔を持ち上げて、景斗を見た。

「彼女、できてよかったね。安心した」

申し訳程度の笑顔を浮かべるユウに、景斗は同じような微笑みで「うん」と頷いた。
これは本心ではなく、気遣いだろうか。
余計に景斗の首を絞める。

彼女こそどうなのだろう。
HARUと2人きりだった、あの日のこと。
聞くなら、今しかない。

「……ユウさんこそ、HARUさんとは、うまくいってる?」

どうして、あえて自分を苦しめるようなことを知りたがるのだろうか。
でも、これを聞かなきゃ終われない気がする。

「ああ……ええと……」
ユウはなんともいえない表情でうつむいた。