沈黙を打ち破ったのはユウだった。
「景斗だってオトナなんだから、彼女のひとりくらい、いるよねぇ」


なんだかその言葉は、あまりにも他人行儀で。
まるで2人の間を線で明確に仕切るような。
私と景斗は何の関係もありません。そんな宣言に聞こえて。

胸にじわじわと痛みを感じて、でもそれはおかしな話だと、景斗は何も感じないふりをした。


一体何を悲しむ必要がある?
だってユウさんには好きな人がいて、僕には新しい彼女ができて
それはとても自然なことで、何も気に病む必要なんてないはずだ。

景斗はひとつひとつ冷静に分析しながら、動揺することなど何もないと自分に言い聞かせた。


「ねえっ」
イリーナがその表情をぱっと明るくして、景斗の方へ身体を向けた。
「その彼女、どんな人?」
もうその話題に対するスタンスを切り替えたのだろうか、バカみたいに軽い口調で聞いてくる。

「ええっと……」
景斗は苦笑いを浮かべて視線を漂わせた。

ひょっとしてこれはイリーナなりの気遣いなのだろうか?
場を和ませようとしてくれている?
どうせなら、話題を別の方向へ持っていって欲しかった。

「まぁ、普通だよ」
「美人系? 可愛い系?」
「……どっちかっていうと、可愛い系かな?」
「細め? 太め?」
「……普通だよ」
「背は高い? 低い?」
「……低いよ」
イリーナの質問の嵐に、景斗は困り顔のまま答える。