「イリーナって、ほんっと英語苦手なんだねー。ついでに字が汚い」
イリーナの書いた筆記体でもないのにミミズが這うような英文を見て、ユウはため息をついた。
「だって俺、理系だもん」
「理系も英語必要でしょー?」
「俺は日本から出ないから英語必要ないよー」
「屁理屈言わないのー」

ユウが赤ペンでイリーナの頭をこずくと、イリーナはふてくされた顔で足をジタバタさせた。

景斗は正直安心していた。ユウが居てくれてよかった。
イリーナの課題を見て、一瞬で悟った。もう、自分には他人に英語を教えられるような学力はない。
仕方がないので、景斗はイリーナとユウのコントを横から眺めていることにした。
もはや手伝いではなく、2人に場所を提供するだけの単なる家主だ。

景斗が完全に気を抜いて、ぼんやりと2人を眺めていると

ブーッブーッ

机の上に置いていた景斗の携帯がけたたましく震えた。

思わず全員の視線が集まる。
そこに浮かび上がった新着メッセージ。


『明日のデート、楽しみにしています』


!!


景斗は慌てて携帯を掴み上げて、画面を隠すように自分の胸元へ向けた。

が、時すでに遅し。
ユウとイリーナがあんぐりとした表情で景斗を見ていた。

「……景斗、何、今の?」
スルーしてくれるほど、イリーナは大人ではなかった。
「ひょっとして、彼女??」
困惑した表情でテーブルに身を乗り出した。