玄関のドアを開けると、仕事帰りなのだろう、フォーマルな黒いジャケットを羽織ったユウが立っていた。
手には小さな紙袋を持っている。手土産だろうか。

ユウは景斗の姿を見るなり、びくりと肩を震わせた。
「け、景斗も……来てたんだ?」
「…来てたっていうか――」
景斗は苦笑いで頬を掻く。
「ここ、僕の家だから」
「えっ!? そうなの!? てっきりイリーナの家だと……」
目に見えて困惑するユウ。

イリーナ、僕がいること伏せてたな……

恨めしさに頭が痛くなる。

もしも、自分がいることを知っていたらユウはこなかっただろうかと思いを巡らせて、どうしようもなくいたたまれない気分になった。

やはり想いを告げるべきではなかった――
浅はかだった自分の決断を後悔した。が、もう遅い。
ここ数日ユウがゲームにログインしなかったのは、ひょっとして自分のせいなのではないかと、今さらながらに気づいてしまった。


「とりあえず、上がって」

リビングに招かれたユウの目に飛び込んできたものは、テーブルの上に酒とつまみをひろげて晩酌をするイリーナの姿だった。

さすがのユウも呆れたようだ。
「イリーナ。勉強する気ある?」ユウは低い声で言った。
「あったり前じゃん。アルコールは頭の回転を早くするんだよ?」

「だからそれ、絶対嘘だから」
2人の会話を遮って、景斗はイリーナから酒を取り上げる。

「ええー! これからじゃん」予想通りの不満の声に
「課題が先」景斗が冷たく答えると
「お堅いなー景斗は……」
イリーナはぶつぶつと文句を溢しながら、リュックから参考書を取り出し、テーブルの上に並べた。