「俺の、見合い相手だ。」
駅のベンチに並んで座った時。
函南君は静かな声で、呟いた。
「…………………うん、なんとなく、そんな気がしたよ。」
清花の答えにさほど驚いたりはせず、函南君は淡々と言葉を続けた。
「さっきの…女。
前言った、俺が社長になるっていう話をしたろ。
ああして婚約者と会うたび自分の立場を思い知らされる。
ああ、俺はやっぱり普通と違う人間なんだって。
自分の思うとおりにはできないし、自分の事情に、誰かを巻き込む事もしたくない。
だから、どんなに俺を好きでいてくれても、俺はそれに答えられない。」
はっきりとした拒絶の言葉。
私があの時、弓道の大会で告白した返事が、それなのかな?
だったらすごく悲しい。
もちろん、また振られたからもあるけど…。
函南君が抱えている事情。
君はそれに巻き込みたくないから、他の人を遠ざける。
だけど、それは函南君が孤独を選ぶって事なんでしょう?
それじゃ、あまりにも悲しすぎるよ。
何本の電車を見送っただろうか。
吹き込んだ風が、二人の髪を揺らす。
清花は言葉を選ぶように話しかけた。