函南君にしては珍しい、冗談でも言うような口調。
だけど…、その言葉があまりに物悲しかったので、清花もなんだか切なくなって、函南君の横顔を見つめた。
「函南君も、何か悩んでる?」
函南君は、一瞬言葉に詰まったようだったが、躊躇いがちに話し出した。
「…学生の今はこうやってわりと自由に生きてるし、弓道もしてられるけど。
いつかはそうはしてられなくなる。
…俺の父親は社長で、
跡取りは俺だけだし。
親ももちろん、その気でいる。
俺がやらなきゃいけない。」
囁くような、それでいて自分自身に言い聞かせるような。
静かだけど、どこまでも寂しい横顔だった。