下駄箱までの道すがら、函南君はまったく喋らない。
でも、清花が緊張と高鳴る心臓のせいでなかなかローファーを履けなくても、急かすことなくじいっと待ってくれていた。
きちんと履き終わると、再び函南君が清花の手を掴んで歩き出す。
しばらく二人は無言で歩く。
学校と、学校近くの桜の木には、すでに花は無く。
夏にむけて柔らかな新緑をまとった、葉桜にその姿を変えていた。
暖かい風が足元をくすぐる。
「芦屋さんはさ…。」
函南君の声は、呟くようなちいさな声で。
でも、聞き逃すまいと、清花は耳を澄ます。
「なんで俺を好きになったの?
前に会ったの、一回だけだろ。」