「ああ、お嬢さん、ここらの事をよく知らないのなら気をつけなさい」

「え?」




歩き出した千代を引き止めるようにおじいさんは呟く。
千代は振り向きおじいさんを視界に入れる。



「ほれ、あの森・・・」




おじいさんはゆっくりとした動作で指を指す。
その指の先には木々の生い茂った森。

あれは、杏や母が言っていた森だ。



「あそこには、決して近づいてはいけないよ」

「・・・化け物。化け物が出るんでしょう?それは、怖いの?」

「ああ、それはそれは、おっかない化け物さ」




身体をすぼませ、そう言いながら千代に背を向けのんびりと歩き出す。
千代はその背中と森を交互に見比べながら頭の中でいろいろな言葉を飛び交わせる。


誰もがあそこに近づくなという。
化け物とはいったいなんなのか。



おっかない化け物。




千代の中の好奇心がうずうずと疼きだしていた。