足取りは軽く、鼻歌交じり。
颯爽と坂道を駆け下りていく一人の少女。
従者をつければ目立つため、一人で城下に降り立った。
「うわあ!すてき!ここがいつも部屋から見ていた場所なのね」
賑わう城下に胸を躍らせ、辺りをきょろきょろと見渡す。
小国ではあるが城下は栄え、人も多い。
人々は畑仕事を活気よくしている。
「おお、見ない顔だね」
「こんにちは」
「えらい美しいお嬢さんじゃないか」
千代は一度も外に出たことがなかったため、村人も姫の顔は知らなかった。
それが幸いし、誰一人として千代が姫と疑う者はいない。
「私、ここに初めて来たの。ずっと、ずっと来たくて仕方なかったのよ」
「ここにかい?そりゃあ、珍しいなあ」
「あらどうして?」
「ここはなぁんもないへんぴな村だからねぇ」
おじいさんはそう言いながらまがった腰をさする。
穏やかな表情で辺りを見渡し、千代に視線を戻した。
「楽しんでいかれるといい」
「はい」
千代は元気よくそう言って笑った。