鬼羅の傷口の血をふき取ると、それは刀傷のように見えた。
懐に忍ばせていた薬を取り出すと、もう一方の布に塗り込みその傷口を覆うように布を巻いていく。

グッと固く結ぶと、小さく頷き鬼羅を見上げた。



「傷によく効く薬草で作った薬です。これ、差し上げますからこまめに布を変えてくださいね」

「・・・」




鬼羅は居心地が悪そうに視線をそらし黙り込む。





「今日は琉鬼さまはご一緒じゃないのですか?」

「いつも一緒にいるわけではない」

「そうなんですね。琉鬼さまにもお会いしたかったです」




鬼羅の様子にも戸惑う様子もなく、相変わらずニコニコとしゃべり続ける千代。
鬼羅の心は乱れていた。



千代は人間の女。
心を許してはならない人間だ。

心底人間を憎んでいる鬼羅自身、千代の事を無闇に突き放すことができていないのだと気付いた。




なにを言われても、突き放せばいいだけの事。
外に放りだし、泣きわめこうがどうしようが関係なく。



しかし、なぜかそれができなかった。





真っ直ぐな思いをぶつけてくる変な女。
澄んだ瞳を疑うことなく見せてくる汚れを知らない女。