「俺に触るんじゃねぇ!」




その手が触れる直前、けたたましい声で鬼羅が怒鳴った。
ビクッと肩を震わせ、伸ばした手を止める。

まるで怯えたような鬼羅の姿。

―人間が嫌い


そう言っていたことを、千代は思い出した。




いつの間にか鳥のさえずりはやみ、静けさが漂う。
鬼羅から発せられるピリピリとした空気。


それを払拭したのは、やはり千代だった。




「触らなければ、手当はできません!」

「手当など、必要ない」

「なりません!膿んだりしたらどうするのですか」




ぴしゃりと鬼羅の言葉を払いのけ、悠然とした態度で鬼羅の腕を取った。
少し抵抗を示す鬼羅だが、どこにそんな力があるのかと思うほど強い力で掴まれた腕は千代に掴れたまま。





「じっとしていてください」

「っ」




千代は、手際よく動く。
隅に置いてあった壺の中に溜めてあった水をくみ、着物の袖を千切って布を作りそれを二つに裂いて一つを水に浸した。