空が少し明るくなった頃、私達は山を降り、街の外れを歩いていた。

まだまだ人通りはない。

肌寒いなか、私は少し拓人に身を寄せて歩いた。

「寒い?」

彼は心配そうに私を見る。

「ううん、気持ちいい」

このひんやりしている空気が肌をさらさらと撫でていく感覚が心地良い。

「…そう、なら良かった」

私は、左手に持った風船を見た。

昨日よりも元気がなく、私の頭くらいの位置でぷかぷか浮いている。

そっと拓人が私の手を握り、引き寄せられた。

「……!」

拓人の肩に頭をぶつける。

「……拓人」

「ん?」

「どうして私のためなんかに、ここまでしてくれるの?」

拓人は立ち止まり、私を見た。

「………………」

無言のまま見つめ合う。

不意に拓人が私の両手を握った。

「外をあるいてたら、病院の窓に君が見えた」

拓人は思い出すように、目を細めた。

その目は、どこか遠くを見ている。