「周桜くん」

郁子の呼ぶ声と共にふわりと優しい香りがし、郁子が詩月の手を取り、花火を握らせる。

早くと急かすように。

詩月がゆっくりと中腰になり、蝋燭の小さな灯りに花火を近づけると辺りが、ふいに明るくなった。


火薬の匂いと立ち上る白煙に各々の顔がくっきりと照らし出された。


理久はいつの間に取り出したのか、煙草を口に加えている。

詩月はまぁ~想定内だと思ったが、ふと安坂に目を向けると、安坂も煙草を加えている。

ーーえっ、安坂さん!?

詩月は思わず声が出そうになり、息を呑んだ。

詩月の中で安坂は、堅物の優等生というイメージがあった。

まさか煙草を加えた安坂を見ることになるとは思わなかった。


「周桜くん、何ボーとしているの? 花火、終わってるわよ」

あっ……。

郁子に声をかけられ、安坂から目を反らす。

赤、白、黄色、青、緑など様々な光が白煙をあげながら輝く。

詩月は無邪気に花火を楽しみ、ころころ変わる郁子の表情が眩しかった。