女性が立ち上がろうとする詩月の目をじっと見つめ「しっかり頑張って生きなさい。誰にだって生きている意味があるんだから」と、力強く言って穏やかに微笑んだ。

詩月は一礼し掌に乗った折鶴を折り畳み、胸の内ポケットに入れ理久と歩きながら、気の利いた言葉1つ言えなかったことが悔やまれてならなかった。


詩月と理久は大御堂の前で郁子達と合流し、お寺の裏手に向かう。

祭りの喧騒が静けさに変わり、灯りが途絶えた。


「郁、足元気を付けて」

安坂が郁子に声をかけ、そっと郁子の手をとる。

詩月は「なんて自然な慣れた仕草だろう。自分には到底できないな」と思う。


大御堂を回り込むと視界に夜景が広がる。

見上げる空に星は見えない。

けれど、大小様々に彩られた街の灯りに癒される。


「さて、始めるか」

理久が味も素っ気もなく言い放つ。

ーーもったいない……こんなに夜景が綺麗なのに。

詩月は聞こえなかったふりをし夜景を見つめる。