「お兄さん、珍しいわね。若い人がお抹茶なんて」

女性は茶碗を静かに卓に置き、柔らかい声で言った。


「お抹茶の香りはいいわね。暑い時に熱いお茶は体にも優しいんだよ」

女性は抹茶に添えて出された干菓子の包みを丁寧に開け、口に運び小さくフフッと微笑んだ。


詩月はほろ苦い抹茶を口にして、こんな優しい笑顔のできる人はどんな生き方をして来たんだろうと思う。

皺の刻まれた細い指が干菓子の包みを細かく折り畳んでいく。

両手を添えて丁寧に包みの角を合わせ、折り目を正しながら。


「あっ……」

詩月は幾つかの工程の途中で、女性の折ろうとしている物に気づいて声を漏らした。

女性はフフッと笑み全ての工程を折り終えて、左右の指で出来上がった作品を摘まみ、フーッと息を吹き込む。

女性の手の中で翼を広げた小さな折鶴が、毛氈を敷いた卓上に舞い降りた。


「上手ですね」

詩月が言うと女性は折鶴を皺の刻まれた両手で掬い上げ、詩月にそっと差し出した。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

詩月が折鶴を掌で受け取った時、お詣りを終えた理久が「詩月、行くぞ」と詩月の肩を叩く。