入院していて花火大会を見逃した詩月への理久の気遣いに、詩月の胸が熱くなった。


「理久、やっぱり理久は詣って来たほうがいいよ。神主さんに、ちゃんとご挨拶を」


「お前はお堅いな」

理久は言いながら、詩月に休処の赤い傘を指差した。

参拝客に神社が抹茶をふるまっているからと。

詩月は理久が面倒くさそうに御詣りの列に並ぶのを見送って、ゆっくりと休処へ向かった。


香り立つ抹茶の匂いと毛氈を敷いた卓上に香る、蚊取り線香の不釣り合いな煙。

詩月は長椅子に腰を下ろし、周囲が老人ばかりなのに気づき、明らかに場違いな気がした。

詩月の隣に座っている女性が抹茶を啜りながらチラッと、詩月を見て微笑む。

詩月は若い頃には綺麗な方だったんだろうなと、櫛のよく通った整った髪を見て思う。

薄く紅をさした皺のある顔には、目立った染みは見当たらないように思えた。