家へ戻ると母は仕事に行っていて、部屋は微かに生温く静寂に包まれていた。


暗がりの中手探りで階段を登り自分の部屋で座布団を二つに折ると、頭に敷いて床に寝転がった。


そのまま天井に手を掲げ、携帯の画面を睨みあたしは父を思い浮かべ葛藤する。


――言わなきゃ。でも言えるの?


父と関わっていた子供の頃の事。


父と離れた学生時代の事。


母の日々つらそうな顔や、店に飲みに来た日の父の顔。


電話が来るたび裏切られてると気付きながらも、必要とされてると錯覚を起こしていた自分。


走馬灯のように一ページ一ページ過去の思い出は駆け巡る。


「くそ親父!なんでこんな思いしなきゃいけなかったの?あたしが悪いん?」


考えれば考えるなり父のいい姿は浮かばず、自然と口にする。


暗くなっていく部屋はあたしの気持ちを後押し、陽も落ちていく。


思い出された些細な出来事までもがギュギュッと胸を締め付け、苦しくなった。


けど、ぐずぐずしてらんない。


悠希との約束を一刻も早く守らなきゃいけない。



…いろんな出来事を頭に浮かべ携帯を手にしたが、通話ボタンを押せず指を止めた。


かけなきゃいけないと思っても、また罵倒されそうな気がしてかけれなかったんだ。


何度も携帯に手をかけては、通話ボタンを押せずまた深いため息をつく。


携帯の画面に映し出される“おとん”の文字は開く度涙でぼやけていった。


「あああああっっ!!わけわかんねえ!」


不甲斐ない自分に嫌気がさし、大声を張り上げわけもわからず周りにある物をゴミ箱に詰め込んだ。


「いらない、いらない!いらな…」


ゴミ箱の中に押し込まれた携帯を見て、あたしは急に虚しくなり手を止めた。


「何してんだろう…ばっかみたい」


携帯を拾い上げ、胸に押し当てぎゅっと握り締める。