父が以前働いていた店に飲みにきていたんだ。


父は偉そうな態度でビールを注文するなり


「お前客かなりいるんだな」


と呟き、あきらかにやせ細ったあたしを見ても心配などせず店内を見渡し、客を物色する。


「金になるな…」


ゾクッとする笑みを浮かべた父は携帯番号だけを残し、たいした会話もせず酒を飲み干さぬうち数分で店を出て行った。


何か引っ掛かり気持ち悪さも残った。


が、ただの気紛れできた程度だと思っていたんだ。


しかし、あたしの考えは的外れでものの見事に違ってた。


頭から父の存在を忘れ、ゆっくり休養をしていたのもつかの間。


店を辞めたと知った頃から頻繁に電話が鳴りだしていたんだ。


「夜の店出してやるから店やれ。お前客いんだから金になるぞ」


父はあたしが精神的に病んでいるんだと母づたいに聞いていたらしい。


母はあたしが病気だから連絡をとったと言うが、どんな理由があったにせよ父には会いたくなかった。


何度も鳴り止まない電話。


出ては不調で夜なんて出来ないと告げても、聞く耳もたずで


「甘えんな!金になるって言ってんだろ!稼げよ!」


怒鳴り散らされ、父に罵倒される始末。


びくついて電話を切り、憎しみに満ちた自分の気持ちと葛藤する。


――なんの甘え?あたしが金に見えるだけでしょ。くたばれって?金儲けの道具?ふざけんな!


父が憎い。


父がわからない。


捨てて行った人が父なのかさえもわからない…



こんな父の存在を悠希に知られたくない。


あたしと父の関係は絶対に…


「歩?また携帯鳴ってるよ」


「んっ…」


悠希はあたしの不審な動きが気になるのか、何度もこっちを見る。


再び父からの着信がきて、バッグにしまおうか迷っていた。


これに出たらきっと…


「父親?」


「うん」


「なんで出ないの!?」


バッグにしまいかけた時。


どうしても出ないあたしに悠希は痺れをきらしだした。