きっと佐野くんは気づいていなかった。
私が今にも泣き出しそうな顔をしていたことに。
佐野くんの友達が私の表情を見て顔を引きつらせる。
「お、おい・・・。」
友達の止める言葉も無視して、佐野くんはまた、言葉を続けた。
「ちゃん付けで呼ばれんのだってやなんだよ!
しょーがねーだろっ」
しょーがねーだろ
佐野くんの言葉がグサグサと胸に突き刺さっていく。
本当に心臓に刺さっているんじゃないかって思うくらいに、私の胸はズキズキと痛んだ。
頭がくらくらする。
ねえ、幸ちゃん・・・今まで我慢してきたの?
心の中で、そう呟く。
「あっ、サ、サエ・・・」
しまった、とでもいうような顔をした佐野くんは、顔から血の気が引いていったように表情を曇らせた。
すっと伸びてくる手。
いつもならば、喜んで受け取る温かい手なのに、今日は思い切り振り払って走った。
バチン
手を振り払うときに鳴った音が、私と佐野くんの仲を引き裂く合図になった。