廊下を歩いていると、どうしても黒い短髪の男子に目が向いてしまう。

ギャーギャーと賑やかに騒ぐその姿を見て、私はまた、ため息を吐いた。


「サエ、あたし急いで買ってくるね。サエはゆっくり来て。」

何を思ったのか、首だけをこっちに向けて今にも全力で走り出しそうな勢いの舞。

あっ、と言葉を発したときには、もう舞は階段を下りていってしまった。

見えなくなった舞の通った階段を、ぼーっと見つめる。


「・・・行かなきゃ。」

はっと我に返ると、慌てることなく階段を一段ずつ下りた。

舞はゆっくり来てねって言ってたし、そんな急ぐことないよね。

それに、今、あんまり騒ぎたい気分でもないし。


二年前から、いつもぼーっとすることが増えた。

増えた原因は、分らなくもないけれど、改善する勇気もないししようとする努力の欠片もない。


だって、拒否られてしまったら怖いから。


そんな恐怖に打ち勝てない私は、今でも彼と仲直りできずにいる。

幼馴染の、佐野幸人と。