『私さ、今、ハルのこと、フッてやったんだー』
冬香の言葉に、私は首を傾げる。
『何、言ってんの…?
だってハルは冬香のこと、好き』
『違うよ』
私の言葉を遮り、冬香は私のすぐ横に来て、教室の窓に手をついた。
『…夏美さ、私のこと、ムカついてた、そう言ったよね?
うん…あれ、私もそうだったー…』
冬香は、窓からボールを追いかけて走りまわっているハルの姿を見つめ、そして、静かにそう言った。
私が、冬香にムカつくと思われること…
ハルと陰で会ってたこと、ハルとキスもセックスもしちゃったこと、だよね…
冬香は体を回転させ、窓に背を預け、今度は廊下側に視線を変える。
私は横から、冬香のその一つ一つの行動を追いかける。
『ね、なんで教えてくれなかったの?』
私は冬香の言葉に、冬香の顔を見つめる。
『なんで、ハルのこと好き、そう教えてくれなかったの?』
冬香はそう尋ねてくるけど、私は窓に視線を向け、走り回っているハルを見つめた。
『なんでハルに告白された、そう、話してくれなかったの?』
ハルはボールのパスがうまく伝わらず、敵チームと衝突し、その場に倒れ込んだ。
すごく悔しそうな顔、それでもハルはすぐに立ちあがって、そして再びボールを追いかけた。
だから、私も口を開く。
『……好き、だった。
でも、ハルに言われた時は、冬香の好きな人だったし…。
完全に好きっていう自覚がなかったんだ…言い訳にしか聞こえないと思うんだけど。
冬香がハルを連れてきたとき、あの時だったと思う、冬香が幸せそうな顔をすればするほど、素直に喜んであげれない、そんな自分に気がついて……』
完全に言い訳にしか、聞こえないよね。
でも、それでも、冬香はふーっと一息ついて、口を開いた。
『私さ、分かってたんだ。
ハルには好きな人がいるって』
『…え…?』
『私だってハルのことが好きだったんだよ?
ハルの気になる人くらい、見てれば分かるよ。
いつも夏美と一緒にハルの部活の様子を見てる時にね?
ハルがいい守備をしたときも、ゴールを決めた時も、いつも夏美の顔、見てたもん…』
冬香はそう言って、困ったように笑った。
だから、その笑みが、笑みを見ているのが苦しかった。