探るような目で見つつ尋ねると、振り向いた彼は、真意を読み取れない笑みを向ける。


「ただのサラリーマンだよ」

「……それはわかりますけど」


そのナリで会社員じゃなかったら何だって言うのよ。と、苦笑を浮かべて軽くつっこんだ。

聞きたいことはまだある。

職業も気になるけど、次はいつ会えるかわからないのだから、今のうちに聞いておかないと!


「じゃあ、どうして私の名前を知ってたんですか?」


矢継ぎ早に質問すると、男性は一瞬私から目を逸らす。

伏し目がちなその表情も綺麗だな、なんて関係ないことが頭を過ぎる間に、彼は再び私と目を合わせた。


「……そのうちわかる時が来るよ」


彼は表情を変えず、答えになっていない答えを返してきた。

そしてすぐに踵を返そうとするその人を、もう一度だけ引き留める。


「待って、せめてあなたの名前くらい聞かせてください!」


踏み出そうとした足を止め、私を見る彼が、形の良い唇を動かす。


「……夏輝」

「ナツキ、さん?」


私が反芻すると、彼は小さく頷く。クールな微笑を残し、片手をポケットに入れて歩き始める。

すらりとした後ろ姿さえも魅力的な彼を、私はしばらく見つめていた。