あらら、ちょっと機嫌損ねちゃった。からかい過ぎたかな?

でもあんなやり取りは日常茶飯事だけど、と思いながらスクーターが動き出すのを目で追う。すると。


「……熱帯魚は気の毒だな」

「ひゃっ!?」


陽介が走り去るのを見送ろうと振り向いた先、私の半径1メートル以内に男性が立っていて、思わずのけ反った。

び、びっくりした! 陽介と話し込んじゃって気付かなかった、いけないいけない。

……っていうか、この人。

しっかりと男性の顔を確認して、私は目を見開く。


「あ、この間の……!」

「こんにちは。覚えててくれたんだ?」


ふわりと大人の色気漂う笑みを浮かべるその人は、私にキャンディーをくれた、謎のイケメン男性だった。

何故かまた勝手にドキリと胸が鳴る。

そして、今は仕事中で、雑談をしている場合ではないのだと反省する。


「すみません! 来ていただいたのに、店先で話し込んでしまってて……」


頭を下げると、彼はビジネスバッグを持つ方とは逆の手をポケットから出し、私を軽く制する。


「いや、いい情報を手に入れたし、大目に見るよ」

「いい情報?」